はたらく人たち
出版のアクセシビリティ対応を後押しする「アクセシブルライブラリー」担当者の想い #WhatIsMediaDo?

こんにちは!メディカム編集部です。

障害の有無にかかわらず誰もが読書できる社会を目指す「読書バリアフリー法」の施行から今年で3年となります。メディアドゥは今年、自治体の読書バリアフリーの推進を支援しようと、電子書籍ファイル自動読み上げ技術を活用した視覚障害者向け電子図書館「アクセシブルライブラリー」のサービスを開始しました(プレスリリースはこちら!)。6月1日以降、京都府宇治市、石川県加賀市、新潟県三条市で導入されており、各地域で多くの方々に利用を呼びかけています。


誰もが手軽に読書をすることができる環境の整備は、依然道半ばにあります。世に生み出される無数の本を、著者・出版社の権利を守りながら、どのようにしてあらゆる人々に届けていくべきか――。その答えは、まだ模索段階にあるようです。

アクセシブルライブラリーの企画開発・営業推進を担当するメディアドゥ電子図書館推進課の林 剛史さんと鹿室 桃汰さんは、アクセシブルライブラリーによって「出版業界におけるアクセシビリティ対応の機運をさらに高める一助になりたい」と話します。メディカム編集部はそんなお二人に、今回の取り組みの背景、そして目指す将来像などを詳しく聞きました!📖🖊

出版ソリューション事業本部 出版事業開発推進部 電子図書館推進課

課長
林 剛史 さん

2012年、新卒でメディアドゥに入社。広告事業部で自社サイト広告を担当したのち、営業部で新規電子書店運営に従事。その後電子図書館「OverDrive Japan」事業立ち上げに携わり、現在は電子図書館事業責任者。

鹿室 桃汰 さん

2017年、新卒でメディアドゥに入社し、電子図書館「OverDrive Japan」事業に参画。現在6年目。社内運用や図書館サポート業務を経て、現在は営業チームリーダーとして全国の図書館への営業を担当。

提供数とジャンルの偏りが課題…リフロー型EPUBに着目

アクセシブルライブラリーを開発した経緯を教えてください。

林:視覚障害者などの方々が図書館で利用できる本は、点字図書や録音されたデイジー図書(※1)が多くを占めています。著作権法第37条第3項に基づいて、ボランティアの方々などの尽力によって制作されています。

※1 デイジー図書:デイジー(DAISY)はDigital Accessible Information SYstem(アクセシブルな情報システム)の略。デジタル録音図書の国際標準規格で、本の目次・見出しの情報が記録され階層化された朗読音声が収録された「音声デイジー」、音声と同時に文字や図表が表示される「マルチメディアデイジー」などがある。

しかし、一つ一つの本を点字に翻訳したり朗読を録音したりするにはコストや労力が掛かるので、提供量を増やしていくには限界があります。このため、多くの利用者が見込まれる人気小説などは録音データ化されても、例えばライトノベルやビジネス書などはデータ化されにくく、ジャンルの偏りも一つの課題となっています。

また、視覚障害で身体障害者手帳を持つ人数は約31万2000人と推計されていますが、点字を情報入手手段としている視覚障害者が65歳未満で8.2%、65歳以上で7.4%との調査があり、点字を日常的に使う方は10%に満たない状況です(※2)。テレビやラジオ、家族・友人・介助者、携帯電話などから情報を得る方が多いようです。中途失明の場合などは特に、点字での情報入手に苦労されている方が多いのではないかと思います。

※2 出典:厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」(2016年)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa_h28.html

こうした中、2019年6月に「読書バリアフリー法」が施行されました。第3条では視覚障害者などへのアクセシブルな書籍、電子書籍などの量的拡充、質の向上を国や地方公共団体に求めています。各自治体でコストを掛けて独自に対応を進めていくことになりますが、財政が厳しい自治体が対応するには困難を強いられます。

そこで新刊・既刊のどちらもジャンルを問わず、充実した量の本を自治体が提供できる環境を実現する解決策として私たちが着目したのが、「リフロー型」(※3)の電子書籍ファイル(EPUB)でした。リフロー型EPUBはテキストデータを容易に自動読み上げすることができ、メディアドゥも電子書籍流通事業でこのファイルを取り扱っています。既に流通しているリフロー型EPUBを活用した視覚障害者向け電子図書館であれば、自治体の導入コストを抑えることができますし、スマートフォンやパソコンを介した音声自動読み上げ機能で多くの視覚障害者の方々が読書を楽しめると考えました。

※3 リフロー型電子書籍:テキストやレイアウトを流動的に表示する電子書籍。文字の拡大・縮小、行間の変更などが可能で、1行の文字数も自動的に変更される。常にレイアウトが維持される「フィックス型」もある。

完璧さより、まずは提供作品の数

リフロー型EPUBを自動読み上げで提供すれば、「読書バリアフリー法」が求めるように、量的にも質的にもアクセシビリティ対応を前進させられるのでしょうか。

鹿室:量の面で言うと、もちろん国内で流通する全ての書籍の数に比べて少ないのが現実です。しかし、メディアドゥが電子書籍流通事業で出版社さんからお預かりしているリフロー型EPUBだけでも何十万点もの作品が既に存在しています。リフロー型はフィックス型より制作コストが掛かり、作品数が限られるという課題もありますが、技術の発展で少しずつコストが下がっており、今後は更に数が増えていくことが見込まれます。ただ、流通事業のような電子書店での販売とは異なり、このサービスは電子図書館での貸出ですので、改めて各出版社の方々に許諾のお願いをさせていただいている最中です。

林:電子図書館での音声読み上げ機能による貸出に関する許諾は、出版社さんが著者さんと結ぶ契約内容に含まれていないことが多くあります。「購入しなくても誰でも読めてしまう」ことや、読み上げの質への懸念から、やはり許諾のハードルは高いようです。ここは丁寧に説明をさせていただき、少しずつ許諾いただける出版社さんを増やしていけたらと思います。

鹿室:林さんからも少し触れたように、質の面についても、自動読み上げ機能で再生される言葉は100%完璧だとは言えません。例えば同じ漢字表記で異なる読み方の人名が2か所に出ていたら、文脈によっては区別できないことも時々あります。それでも自動読み上げ技術の精度は年々上がっていますし、視覚障害者の方々にお話を伺うと、完璧な読み上げよりも提供作品が増えることを望んでいらっしゃるようでした。

作品提供を許諾してくださった出版社さんからは、アクセシブルライブラリーに対してどのような評価や反応がありましたか。

林:これまでご提案に伺った出版社の皆様は、どの会社さんも読書バリアフリー法を出版社としてどう受け止め、何ができるのかを真剣に考えていらっしゃいました。許諾いただいた出版社さんの中には、これまで制作されてきた電子書籍ファイルを活用してアクセシビリティ対応を実現するアクセシブルライブラリーの構想に衝撃を受けてくださった方や、「全面的に賛同する」とおっしゃってくださった方もいらっしゃいます。また、UIについて「エンドユーザーの目線で開発されていて、視覚障害者の方々がどのように読書されるのかをはっきりイメージできる」と、非常にありがたいお声もいただいたことがあります。

もちろん各社それぞれのお考えがありますので、歓迎の声だけでなく様々なご意見を頂戴しています。こういったサービスに参画するには著者さんも含めた相当な手続きが必要になり、大きな負担が掛かってしまいます。こうした事情もあり、すぐに決断いただけるようなお話ではないことを強く実感してきました。これからも継続して事業を進める中で、少しずつご理解を得ていくことができればと考えています。

開発は視覚障害のある当事者の方と一緒に進めたと聞きました。

鹿室:アクセシブルライブラリーは視覚障害者向けの電子書店を開発しようと取り組んでいたREMEM株式会社の協力を得て開発しています。その社員さんで全盲の北村直也さんに事業協力メンバーとして参画いただき、機能改善を進めました。

林:開発の大前提としていたのは「視覚障害者の方が自力で使えるプロダクトにすること」です。視覚障害者の方はスマートフォンのアクセシビリティ機能で、ページ全体を上から読み上げる機能を使って閲覧されているので、そうした利用方法に適したデザインにする必要があります。しかしメディアドゥには当時、アクセシビリティ対応に関するノウハウがほとんどありませんでした。そこでサービス開発中は、北村さんに目の前で使ってもらい、色々なフィードバックをしてもらいました。経済産業省の2021年度「J-LOD」(※4)に採択されて実施した実証実験では、40人以上の視覚障害者の方にも体験してもらっています。

※4 J-LOD:経済産業省の令和3年度「コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金」の略称。アクセシブルライブラリーの開発・実証実験は、J-LODの「コンテンツのサプライチェーンの生産性向上に資するシステム開発を行う事業の支援」へ採択を受けて実施。

印象に残っているフィードバックはありますか。

鹿室:アクセシブルライブラリーで読みたい本を探す際に、視覚障害者の方はスマートフォンなどの読み上げ機能で書誌情報が並んだリストを閲覧します。もともとは書誌情報一つごとに、閲覧画面にリンクされた「読む」ボタンを配置していましたが、北村さんからは「これでは1回の操作で次の作品を確認できず手間が掛かります。読むボタンを独立させず、作品名と読むボタンをまとめて一つの閲覧画面へのリンクにしてもらえれば、楽に作品を探せるようになります」といったアドバイスをいただいたことがあります。

こうした丁寧なアドバイスをたくさんいただくことで、最初に想定していたUIとは全く違うものに仕上がっていきました。そうした一つ一つのアドバイスが非常に勉強になったと感じています。初めてスマートフォンの使い方を見せてもらったときから驚きの連続でしたし、勉強不足だったことを反省しました。

UIの質を高め、導入先の負担も減らす

他にも、開発する中でこだわったポイントはありますか。

林:三つに分けてお話しします。一つ目が読書体験の質です。まずは視覚障害者の方々にとってのベストなUIである「テキストのみで構成されたサイト」であること。そして、音声読み上げのスピードが0.5倍~3倍まで6段階で調節でき、高速にしても聞き取りやすい合成音声を採用しています。人によって聞きやすい声色もありますので、男性・女性風の声、そしてその中でも高めや低めなど、幅広い8種類の声色を選べるようにしました。

アクセシブルライブラリーのサービスサイトは、総務省が推奨するウェブアクセシビリティに関する日本産業規格「JIS X 8341-3:2016」に準拠するよう開発を進めました。全てのページや機能について、この規格に適合しているか検査をしています。検査と改善の結果、現在の適合レベルはAAに準拠している状態です。結果はサービスサイト上でも公表しており、全ページ・機能がウェブアクセシビリティに適した構造であることを示しています。

鹿室:二つ目は、利用者の方に「利用者IDカード」をお渡しすることです。先ほども林さんがお話しした通り、このサービスは視覚障害者の方が、最初から最後まで自分の力で使えることが重要です。このカードは右側に切り込みが入っていて、QRコードが印字されている位置を表しています。切り込みを手掛かりにスマートフォンでQRコードを読み取るだけで、アクセシブルライブラリーにアクセスいただけます。

利用者IDカードのイメージ画像。右下の切り込みを手掛かりにQRコードの位置を見つけることができる。

林:三つ目は、このサービスに貸出・返却の概念がなく、読み放題で安価なサブスクリプションサービスで提供することです。導入先自治体には人口に応じた定額の月額費用を負担いただき、コンテンツを提供いただいている出版社さんにわずかながら還元させていただきます。読み放題なので、導入先で本を選ぶなどのサービス運営に関する負担がありません。運用と費用の両面で、どんな規模の自治体でも導入いただきやすい仕組みになっていることは、自治体の方々にとって大きなメリットだと考えています。

読書バリアフリー前進の一助に

なぜ利用対象を視覚障害のある方に限っているのでしょうか。

林:まずは出版業界全体でアクセシビリティの取り組みを進めていこう、という機運を一層高めるきっかけの一つにしたいと考えたためです。先ほどもお話ししましたが、誰でも利用できるサービスでは、出版社さんに許諾をいただくことは難しい場合が多くあります。

そこで、今回は対象を絞ることにしました。本にアクセスすることが最も困難なのが視覚障害者の方々と言えます。読み上げを最も必要としている彼らを対象にしたサービスをまず実現することが、業界全体の取り組みを一歩前に進めることにつながると考えました。

読書バリアフリー法を見ても、対象は視覚障害者「等」とされ、肢体不自由や発達障害などを含めた、読書が困難な状況に置かれた広範な立場の人を想定しています。将来的には、全ての人々が手軽に本にアクセスできる環境を何らかの形で実現したいと思っています。

最後に、お二人が考えるアクセシブルライブラリーの今後の目標をお聞かせください。

鹿室:今回のサービスを多くの自治体に導入いただければ、視覚障害者の方々が本を読むための選択肢が大幅に増えることになります。晴眼者の場合は書店を巡ったり、図書館に行ったりと様々な形で本と出合うことができますが、とりわけ視覚障害のある方々は選択肢が限られてしまっています。選択肢を一つでも多く提供することで、読書をより身近なものに感じていただけるようになればと思います。

林:メディアドゥは「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人へ」というビジョンで様々な事業を展開しています。これを機に出版業界でアクセシビリティ対応の議論が更に具体化し、視覚障害者に限らず十分な読書環境が提供されていない幅広い方々に対象を拡大するなど、平等な読書環境を提供する動きが一層活発化することを願います。


今回は、音声自動読み上げ技術を活用した視覚障害者向け電子図書館「アクセシブルライブラリー」の開発背景などをご紹介しました!メディアドゥは様々な工夫を重ねて開発されたこのサービスを通して、アクセシブルな読書体験を提供していきたいと考えています。

今後もさらに多くの出版社や自治体の皆様の協力により、より広く充実したサービスを届けられるよう邁進してまいります!アクセシブルライブラリーにご興味をお持ちの方は、こちらをご覧ください。

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メディカム編集部
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